VW 排ガス不正・なぜ?

話題
広告

フォルクスワーゲン(VW)が、米国で排気ガス基準をクリアするために不正を行ったことが世界中を驚かせていますね。

報道によれば

VWとアウディ部門のディーゼルエンジン車は、米国当局による検査の時だけ排気ガスをコントロールする機能がフル稼働するソフトウエアを搭載して販売されていた。
米環境保護局(EPA)によると、 通常走行時の排気ガスは基準の10-40倍に達する。

ドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)は、米国の排気ガス規制に関する検査での不正行為を認めた。

マルティン・ヴィンターコーン会長兼最高経営責任者は、辞任を発表したけれど、不正については知らなかったと発言。

米国では規制が日欧と比べても厳しいので、それをクリアするためVWは、排ガス試験の時だけエンジンの動作を調整して有害物質を減らす違法なソフトを使っていた。
実際の走行時には規制値の最大40倍のNOxをはき出していた。

記事を読んだだけだと、「世界的な名門企業がこんな悪質なことをするのか」というのが、多くの人の感想でしょうか。

「きっと一部の人間の仕業では」なんて思う人もいるようですが、そんなことはないでしょう。

VW 排ガス不正・なぜ起きたのでしょう?

1. 米国の規制がとりわけ厳しいので、米国の検査だけインチキして規制をパスさせた?

ブログ記事「VW ディーゼル車の排ガス問題 | VWだけ?」に、International Council on Clean Transportation (ICCT) が実施した、15車種のディーゼルエンジン車の路上でのNOx排出実走行テスト結果を転載しました。

このテスト結果よると、NOx排出に関して、欧州のひとつ前の基準のEuro5ですら、クリアしている車種は、テストした15車種中1車種だけでした。

大半のディーゼル車は、路上で基準以上のNOxを排出しているのが現実です。

テスト環境と路上でのNOx排出量の違いをどうするのか?
今まで、一般の人が見過ごしていた問題です。
燃費が運転操作や走行条件の違いによって大きく変わるように、NOx排出量だって様々な条件で変わるはずです。
経時変化でも結果は変わります。

もともと、路上では、NOxの排出基準が欧州でも守られていないのです。
排ガステストに合格すればよいというのが、今の規則のようです。

要は、路上では規制値オーバーは当たり前というのが、業界の常識なのでしょう。
これがダメならば、ディーゼルエンジンを止めて、電気で動かすしか方法はなさそうです。

 

2. 世界的な大企業が組織ぐるみで悪事を働くのか?

メーカには、2種類の品質保証部門が有ります。
設計品質を生産部門(工場)に保証する部門商品をお客さんに保証する部門です。

 

設計品質を生産部門(工場)に保証する部門の役割

例えば、米国で新しい規制ができることが分かると、開発・設計部門では、その規制をクリアするための技術開発をします。
開発した技術を使った部品や商品が工場で量産できるかをテスト・評価します。
評価結果は、部門内で共有され、問題点の解決に組織として努力します。
評価結果が合格レベルに達すれば、開発・設計部門と工場との合同の会議を開き、評価結果を報告します。

しかし、工場は簡単には設計図を受け取りません。
不良品ができれば工場の責任になるので、量産に適した設計になっているかなど、設計の品質をしっかり評価します。

最近では、開発日程を短くするために、設計段階から工場の担当者と設計者が共同で設計するようになっていますが、基本の評価の流れは同じです。

話をNOx排ガス技術に絞れば、米国の厳しい規制をどのようにクリアしたのか、具体的な解決策と評価結果が議論の中心になります。
マルティン・ヴィンターコーン会長兼最高経営責任者は、技術者出身だそうです。
技術者でなくても、経営者なら経営に重要な影響を与える問題である、難しい規制をクリアできるのか、できたならどうのようにクリアしたのか関心を持つはずです。
ましてや、技術者だったなら知ろうとしないわけがないというのが、正直な感想です。

 

お客さんに保証する部門の役割

書いた字のままの役割の部門で、大抵は、品質保証部といった名前です。
購入部品の受け入れ検査や工場から出ていく商品の品質が社内の出荷基準を満たしているか検査します。

排ガス試験も当然実施しているはずです。

これらの品質保証部の検査・評価結果をみて、商品を販売するか最終的に決まります。

二つの部門の評価結果は、クローズドではありません。
関係部門が集まった会議体で、評価報告がされ、議論された後で、販売が差し戻しになったり、ゴーになったりします。

一部基準(社内基準)に満たないところが有っても、経営判断でゴーを出すこともあります。

 

まとめ

VWが米国基準をクリアできないこと、正確には「米国基準をクリアしつつ低燃費を実現する技術」が開発できていないことは、経営者や社内の担当部門では明らかになっていたはずです。

それでも、ディーゼル車を販売する決断をしたのは経営者と言わざるを得ません。
なぜ?そう判断せざるを得ない事情があったのでしょう。

大きな企業になれば、組織として動きます。
担当レベルでの個人プレーは、できません。

しかし、最終的には組織を守るために、経営者の判断ミスを隠すために、担当部門の個人に責任をかぶせる、いわゆるトカゲのしっぽ切りで終わらせるのが世の常ですが、VWの排ガス不正問題はどう決着するのでしょうか。